タイトル 世界のごみ箱

デンマークの有害廃棄物処理施設−コムネケミ−

はじめに

 日本では,家庭に存在する有害廃棄物を回収,処理するシステムが十分に整備されていません。家庭用農薬やペンキの残ったものとか,割れてしまった水銀体温計とか,中身の入ったスプレー缶(*1)とか,有害性があるにも拘わらず,自治体でも引き取ってくれないごみが沢山あります。
 しかし世界に目を向けると,デンマークにはコムネケミという施設があり,家庭から発生するあらゆる有害廃棄物を回収・処理しています。私は,2003年にコペンハーゲン郊外のデンマーク水・環境研究所(DHI-Water & Environment)に客員研究員として半年間,滞在する機会を得て,デンマークに暮らしていました。また,DHIで受け入れていただいたDr.Ole Hjelmerは,コムネケミともいろいろと仕事上のお付き合いがあり,見学できるように仲介してくれました。そこで見学に行った際にもらった資料や文献から得られた情報も含めて,ここに残しておきます。

*1 京都市では2007年の10月から空のスプレー缶の回収が始まりました。


コムネケミについて1,2)

 コムネケミ(Kommunekemi)とは,デンマーク中央部のヒュン島のニューボー(Nyborg)市に設置されているデンマーク唯一の公営の有害廃棄物処理施設です。自治体を意味するコムーネKommuneと化学会社,化学薬品を表すケミKemiを併せた造語による名称です。
コムネケミの地図

コムネケミ写真
コペンハーゲンのあるシェラン島とコムネケミのあるヒュン島は橋で繋がっており,電車でも自動車でも,船に乗らずに行くことが出来る。列車の窓から取った海の様子。

コムネケミ写真
ニューボー駅に到着。


 ここにはもともと,地方自治体が所有していたタール製品の製造工場があったそうです。そして1970年に,地方自治体の共同出資により有害・化学廃棄物の焼却プラントが建設され,有害廃棄物の集中処理を行う株式会社コムネケミが設立されました。現在,デンマーク国内から発生する全ての有害廃棄物(放射性廃棄物,爆発性の廃棄物を除く有害成分を含む廃棄物)を処理しています。コムネケミに関する基本的な情報を表1に示しておきます。
表1  コムネケミの基本情報
出資金の割合 地方自治体の共同体  82 %
コペンハーゲン市   15 %
フレデリクスベルグ市  3 %
受け入れた廃棄物量(2003年) 120,200トン
従業員 219 人
主な廃棄物処理施設 受入貯留施設
分別保管施設
廃油処理施設
物理・化学処理施設
焼却施設(ロータリーキルン 3基)
発電・熱供給施設

 これらの廃棄物処理施設が,市の中心部から約1km程度の所に存在しているため,設立当時は周辺住民との間でさまざまなトラブルがあったとのことです。NIMBY(Not In My BackYard)というのはいずこの国でも同じですね。
 しかしその後,デンマーク政府やコムネケミ社自身の積極的な情報公開により,現在は,比較的良好な関係にあると言われています。この辺りはリスクコミュニケーションの点でも,参考にすべきことがありそうです。
 コムネケミの情報公開の一端として,例えばコムネケミのHPのここで,廃棄物焼却炉の排ガス規制項目の測定値を見ることが出来ます。デンマーク語でしか作成されていないので,ちょっとひるんでしまいそうですが,粒子状物質,TOC,HCl,CO,SO2,フッ化水素,水銀,金属総量(砒素,クロム,ニッケル,鉛,銅,アンチモン,コバルト,マンガン,バナジウム,スズ),カドミウムとタリウム,ダイオキシン類などの測定データが示されています。

 処理施設も2003年当時の最新式であり,見るべきところが多かったのですが,多様な廃棄物の適正処理に対応するため,スタッフの中には廃棄物処理に関する研究者がおり,常に廃棄物処理に関して研究を進めているという話で感心させられました。実は私が訪問した時も,日本で進んでいる焼却灰の溶融処理についてプレゼンテーションを求められ,多くの質問を受けました。それが見学の条件だったような……(^^)
 また彼らは,処理を通じて得たノウハウや技術について,海外に技術移転をすることによって利潤を上げており,マレーシアの総合的な産業廃棄物処理施設の建設にも関与しているとの話でした。これは日本企業も関わっているKUALITI ALAMの事だと思います。KUALITI ALAMも別の機会に訪ねたのですが,写真は撮らせてもらえませんでした。残念。

コムネケミ写真
コムネケミの研究者たちと私。
デンマーク人は,総じて背が高い。私が特に小さいわけではなく,彼らが大きいのである。

 コムネケミの受入廃棄物の分別基準を図2に示します。
コムネケミの廃棄物分別基準


有害廃棄物処理システムについて

 コムネケミでは,日本では回収システム・処理システムが完備していない有害廃棄物(蛍光管,塗料,車のバッテリー,殺虫剤などの薬剤など)を全て回収・処理しています。国内から発生する全ての有害な廃棄物をコムネケミ1箇所で処理するというデンマークのこの方式は
などから非常に有効なシステムであると考えられます。また日本では回収システムが確立されていない塗料類,大型の鉛蓄電池,使用済み(一部残っている)の殺虫剤や農薬類などについてもきちんと処理する方式が整っていることは,家庭内にさまざまな有害廃棄物が滞留しているわが国の現状と比べ,遥かに好ましい状況であるのは間違いないでしょう。
 ただし,これはデンマークならではのシステムであるとも言えそうです。デンマークの国土面積は,日本の1/10程度ですが,全土の中で最も高い場所が海抜176メートルという非常に平坦な国で,ほとんどの土地を実質的に使うことが出来ます。また人口は約540万人とわが国の1/20以下であり,見かけの人口密度は1/2〜1/3程度ですし,可住地面積に対する人口密度で考えると,日本より遙かに広々としていたところに住んでいる計算になります。当然,道路なども広く使えるわけで,有害廃棄物の収集運搬時の危険性も比較的低いのではないかと思われます。こう考えると,このシステムをそのまま日本に導入できるのかどうか,あるいは好ましいのかどうかについては,充分に議論する必要があるだろうと思います。
 しかし見学時に聞いた話では,基本的なスタンスとして「コムネケミは,どのような厄介な廃棄物であろうと,市民から持ち込まれたものは適正に処理しなければならない。どのような技術で対応するのか,費用は誰が負担するのか,については,廃棄物を受けつけてから考えなければならないケースもあるが,とりあえず受け取って処理するのは,私たちの責任である。」とのことでした。日本で自治体に廃棄物の処理方法を尋ねたとき,「処理できませんので,家庭で保管しておいて下さい。」と言われるのと比べると,その差はあまりに大きいと思います。家庭内に有害廃棄物を保管することは,地震や火災などの際の混触や漏洩に関する潜在的なリスクを抱えることであり,決して好ましいことではありません。コムネケミのシステムも一つの題材として捉えながら,家庭系有害廃棄物の適正管理方法について,もう少し検討する必要があるでしょう。
 なおコムネケミは,家庭から発生する有害廃棄物のみならず,国内のさまざまな企業から発生する有害廃棄物も,処理費用を取った上で処理しています。例えば,筆者が滞在したDHI-Water & Environmentや実験をさせてもらったデンマーク工科大学(Danmarks Tekniske Universitet通称DTU, 英語名ではTechnical University of Denmark)から発生する実験廃液や汚泥類も,いずれもコムネケミで処理されていました。このDTUからの実験廃棄物の処理システムについては,コムネケミのシステム紹介とともに,学生への廃棄物処理に関する教育的な視点も交えて廃棄物学会で発表しました3)。


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区切り
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