冬になり、池やバケツの水に氷が張るようになると思い出すことがある。幼稚園に入る前のことだがぼくは庭の汲み置きのバケツの水に氷が張っているのを発見した。今思えばかなり汚ない水だったと思うのだが無邪気だったぼくはそんなところで氷を発見したことが誇らしくて、まるで蜂蜜を見つけた熊のように満足しながらその氷を食べた。しばらく食べたところで父親に見つかりずいぶん叱られた。案の定その晩お腹がいたくなり、薬を飲んだのだった。
今から思えば小さい頃の単なる笑い話だが、ふと身の回りを振り返ると決して笑ってばかりでもいられない。関西の飲み水のまずさには定評があるが、味が悪いだけでなくトリハロメタンなどの有害物質が満ち満ちている。おいしい水の代名詞だった井戸水の汚染もかなりひどいらしい。そんな水で氷をつくって水割りをつくり、またコーヒーを沸かして飲んでいる今のぼくに、いったいあのころの自分を笑う資格があるのだろうか。 (1991年秋頃)
※ この文章は,学生時代に
ミニコミ誌『みどりむし』にコラムとして書いたものです。